不利益な処分が下される前に「するな」と止めてもらう訴訟が差止訴訟である。取消訴訟が処分後の事後救済であるのに対し、差止訴訟は処分前の事前救済を担う類型として、義務付け訴訟とともに2004年の行政事件訴訟法改正で明文化された。一定の処分がされようとしており、それによって重大な損害を生ずるおそれがあること、その損害を避けるため他に適当な方法がないことなどが訴訟要件となり、処分がされることが相当の確実さで予測できる段階で提起する。認容されるには、処分をすべきでないことが法令上明らかであるか、行政庁の裁量権の逸脱・濫用にあたると認められる必要がある。原子力発電所の運転や公共事業など、いったん処分が実行されると回復困難な被害が生じる場面で活用される。
処分の前に「するな」と止める事前救済
差止訴訟とは、行政庁が一定の処分または裁決をしようとしており、それによって重大な損害が生ずるおそれがあり、かつその損害を避ける他に適当な方法がない場合に、当該処分・裁決をしてはならない旨を命じるよう裁判所に求める抗告訴訟である(行政事件訴訟法第3条第7項)。処分後の取消訴訟が事後救済であるのに対し、差止訴訟は処分前に救済を図る事前救済を担う。2004年改正より前は明文の規定がなく、一般の確認訴訟として処理されていたが、同改正で義務付け訴訟とともに抗告訴訟の一類型として明文化され、事後救済では間に合わない場面に法的な受け皿ができた。
訴訟要件——いつ提起でき、何が認容の壁か
差止訴訟が認められるには、まず処分または裁決がされることが相当の確実さで見込まれること(蓋然性)が要る。そのうえで、処分によって重大な損害が生ずるおそれがあること、損害を避けるための他の適当な方法がないこと(補充性)、原告がその処分をすべきでないと主張できる法律上の利益を持つこと(原告適格)が必要になる(第37条の4第3項)。重大な損害かどうかは、損害の回復の困難さや処分の内容・性質を踏まえて判断される(同条第2項)。認容の段階では、処分をすべきでないことが法令上明らかであるか、行政庁の裁量権の逸脱・濫用にあたると認められなければならず、提起のハードルも認容のハードルもともに高い。
義務付け訴訟との対比
差止訴訟が将来の処分を禁じるよう求めるのに対し、義務付け訴訟は行政庁に処分を行わせるよう求める。義務付けには、申請拒否処分の取消しとあわせて許可処分を求める申請型と、申請を前提とせず特定の処分を行わせる非申請型がある。差止訴訟が不作為(処分をしないこと)の維持を求める点で、積極的な処分実施を求める義務付け訴訟と対照を成す。両者はいずれも仮の権利保護(仮の差止め・仮の義務付け)の申立てが可能であり、侵害が現実化する前の予防的救済という点で共通し、事前救済を実効化しようとした2004年改正の趣旨を体現している。
活用される場面と自治体の備え
差止訴訟が使われる典型は、公共施設の建設に反対する住民が許可処分の発動を止める訴訟、原子力施設の操業許可をめぐる訴訟、廃棄物処理施設の許可に反対する地域住民の訴訟などで、いったん処分が実行されると回復困難な被害が生じる場面に集中する。自治体の側から見ると、許認可行政や規制行政を多く抱える建設・環境・福祉などの部門ほど被告となる可能性が高い。差止訴訟の提起が予測される場合は、処分の適法性を確認し、手続保障を徹底し、判断過程の記録を整えておくことで、応訴に入ったときの立証準備が滞らない。
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