仮の差止めとは、差止訴訟の提起後に、本案判決を待っていては償うことのできない損害を避けるため、裁判所が仮に行政庁に一定の処分をしてはならない旨を命じる仮の救済の制度をいう。
営業停止や許可の取消しといった不利益処分が今にもされそうなとき、本案の差止訴訟の決着を待っていては手遅れになる。仮の差止めは、こうした場面で処分を暫定的に差し止め、現状を保つための仮の救済である。
2004年の行政事件訴訟法改正で、差止訴訟の創設にあわせて設けられた。要件は仮の義務付けと並行し、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、本案について理由があるとみえ、かつ公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないことを要する。処分の効力発生後にその執行を止める執行停止とは異なり、処分がされる前にこれを未然に止める点に特徴がある。仮の義務付けと対をなす消極的な仮の救済である。
執行停止・仮の義務付けとの異同
仮の差止めは、差止訴訟が適法に提起されていることを前提とし、行政事件訴訟法が定める要件を満たす場合に認められる。要件は仮の義務付けと同様で、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること、本案について理由があるとみえること、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないことである。執行停止が、すでにされた処分の効力・執行・手続の続行を止めるのに対し、仮の差止めは処分がされる前にこれを未然に止める点で局面が異なる。また仮の義務付けが処分を「させる」のに対し、仮の差止めは処分を「させない」点で方向が逆である。
活用される場面
仮の差止めが問題になるのは、営業許可の取消しや事業の停止命令など、いったんされてしまうと事後の取消しでは回復しがたい不利益処分が切迫している場面である。本案の差止訴訟は処分の前段階で争う性質上、提起の時点で処分の蓋然性が問われるが、仮の差止めはさらに緊急性と本案の見込みが要求される。執行停止と同じく、内閣総理大臣の異議の制度が準用され、異議が述べられたときは裁判所は仮の差止めをすることができず、すでにした決定も取り消さなければならない。これにより、行政運営への過度の介入を避ける調整が図られている一方、司法による迅速な救済との緊張も指摘される。
ご意見箱(匿名でひとことから投稿できます)