擁壁とは、切土や盛土でできた崖の崩壊を防ぐために土を支える壁状の構造物であり、建築基準法の工作物確認や盛土規制法の許可など複数の法制度の規制対象となるものである。
一枚の擁壁にどの法律が掛かるのか——この交通整理が、建築指導と開発審査の窓口業務の定番である。高さ2メートルを超える擁壁を単独で築造するなら建築基準法第88条の工作物として確認申請が要る。宅地造成等工事規制区域など盛土規制法の規制区域内で造成に伴って造るなら同法の許可と技術基準が掛かり、この場合は工作物確認の適用が除外される。崖の近くに家を建てるならがけ条例が擁壁の設置や構造補強を要求し、開発行為なら開発許可の技術基準で擁壁の構造計算が審査される。同じ「土を支える壁」でも、どの場面で造るかによって審査の入口がまったく違うわけである。さらに厄介なのは、こうした審査を経た記録のない既存擁壁で、大谷石積みや空石積みの古い擁壁の上に建つ住宅の建替え相談では、擁壁の安全性をどう確かめるかが最初の難所になる。2021年の熱海市土石流を機に宅地造成等規制法が盛土規制法へ改組されてからは、既存の危険な擁壁・盛土の把握と是正も自治体の宿題に加わった。
どの法律の擁壁か——窓口での交通整理
擁壁の規制は「単独か、造成に伴うか、建築に伴うか」で入口が分かれる。単独で築造する高さ2メートル超の擁壁は建築基準法第88条が準用する工作物確認の対象である。盛土規制法の規制区域内で宅地造成等に伴って設置する擁壁は同法の許可で技術基準(鉄筋コンクリート造等の構造、水抜穴の設置など)への適合が審査され、法第88条第4項により工作物確認は適用されない。崖に近接して建築する場合は、都道府県等のがけ条例が擁壁の設置、建物の崖からの離隔、構造補強のいずれかを要求する。開発許可では技術基準の一部として擁壁の構造計算が審査の山場になる。相談を受けたら、まずどの場面の擁壁かを特定し、所管課(建築指導、開発審査、盛土規制、土木)へ正しく振り分けるのが第一歩である。
検査済証のない既存擁壁——古い造成地の急所
高度成長期以前に造られた擁壁には、審査・検査の記録が残っていないものが大量にある。大谷石積みや空石積みの擁壁は現行の技術基準では構造耐力を評価できないことが大半で、その上の敷地での建替えや増築の相談では、擁壁を造り直すか、建物の基礎を深くして擁壁に頼らない設計とするか、専門家の調査で安全性を示すかの選択を迫られる。不動産取引では重要事項説明の対象になり、「再建築時に擁壁のやり替えが必要になる可能性」は価格にも影響する。自治体側の備えとしては、危険な擁壁の実態把握とパトロール、改修費の補助制度、盛土規制法に基づく既存不安全箇所への勧告・改善命令があり、豪雨のたびに擁壁の崩壊が住家被害に直結する地形の市町村では、空き家対策と並ぶ既存ストック行政の柱になりつつある。
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