予備費とは、予算外または予算を超える支出に充てるため、地方自治法第217条第1項により歳入歳出予算への計上が義務づけられた費目である。特定の事業に充てず、予見しがたい支出に備えて留保しておく点に特徴がある。
予算を組む時点では、災害復旧や訴訟の和解金のように、いつ、いくら必要になるかを見通せない支出がある。こうした支出を見込まずに予算を組み切ってしまえば、いざ必要が生じても議会の議決を経るまで動けず、緊急の対応が間に合わない。予備費は、こうした支出に備えてあらかじめ一定額を計上しておき、必要が生じれば議会の議決を経ずに首長の判断で充てられる点に眼目がある。
ただし予備費は計上したままでは支出できない。必要が生じた額を該当の歳出科目へ振り替える充用の手続を経て、初めて執行できる。地方自治法第217条第2項は議会が否決した費途への充用を禁じており、予備費にも議会の予算統制が及ぶ。同じ財政上の備えでも、複数年度にわたって積み立てる財政調整基金が年度をまたぐ備えであるのに対し、予備費は単年度の予算内に置く小回りの利く備えである。予備費で賄いきれない規模や性質の支出には、補正予算で対応する。
計上の義務と特別会計の例外
地方自治法第217条第1項は、予算外または予算を超える支出に充てるため、歳入歳出予算に予備費を計上しなければならないと定める。一般会計では計上が義務であり、予見しがたい支出への備えを制度として確保している。一方、同項ただし書は、特別会計については予備費を計上しないことができると定める。特別会計は特定の事業や資金の収支を経理する会計であり、収入と支出の対応が一般会計より明確で、不測の支出が生じにくいためである。計上する額に法令上の定率はなく、各団体が財政規模や過去の予備費の使用実績を踏まえ、予算編成のなかで定める。予備費は歳出予算において独立した款として立てられ、特定の事業目的を持たない点で他の費目と性格を異にする。
充用による執行と議会統制
予備費は計上しただけでは支出できず、現実に必要が生じた額を該当する歳出科目へ振り替えて初めて執行できる。この振替えが充用であり、首長の権限で行えて議会の議決を要しない。予算成立後に生じた不足へ議決を待たずに対応できることが、予備費の機動性の核心である。災害復旧、訴訟上の和解金、国の制度変更に伴う急な支出など、当初予算では時期も金額も見込めない事態への即応に用いられる。ただし機動性は無制限ではない。同条第2項は、議会が否決した費途には予備費を充てられないと定める。これは議決を経ない充用にも議会の予算統制を及ぼし、首長が議会の判断を予備費で迂回することを防ぐ趣旨である。充用した予備費の使途は、財務規則等に基づき次の議会へ報告する取扱いをとる団体が一般的である。
流用・補正予算との使い分け
予算成立後に財源の過不足が生じたとき、対応する手段は予備費の充用だけではない。同一款内の項の間で予算額を融通する流用や、款をまたぐ増額や新規の計上を要する補正予算があり、規模と性質に応じて使い分ける。予備費の充用は議会の議決を要さず最も機動的だが、否決された費途には使えず、充てられる額も計上した予備費の範囲に限られる。流用も議決を要しないが、すでに計上済みの科目間でのやりくりにとどまり、款をまたぐ調整はできない。これらで賄えない規模の支出や新たな事業の追加には、議会の議決を経た補正予算が必要になる。さらに年度を越える大規模な財源の備えは、積み立てておく財政調整基金が担う。少額で緊急なら充用、款内の科目調整なら流用、款をまたぐ増額や新規事業なら補正予算、というのが実務上の目安である。
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