投票の秘密とは、選挙人がどの候補者に投票したかを他人に知られないことを保障する選挙の基本原則である。日本国憲法第15条第4項は「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」と定め、選挙人は自らの選択について公的にも私的にも責任を問われないとする。
記載済みの投票用紙をスマートフォンで撮影してSNSに載せる、職場や団体が投票済証の提出を求める、施設の職員が入所者の投票を手伝う——投票の現場には、誰に投票したかが他人の目に触れかねない場面が次々に現れる。これらをどこまで許すかの判断軸が投票の秘密である。憲法の保障を受けて、公職選挙法は仕組みを幾重にも用意する。投票用紙に選挙人の氏名を記載することは禁じられ(無記名投票)、書けば他事記載としてその票は無効になる。何人も、誰に投票したかを陳述する義務を負わない(同法第52条)。選挙事務に関わった者や立会人が投票の内容を漏らせば刑事罰の対象になる。
秘密の保障は、買収や強要の実効性を奪うための装置でもある。誰に入れたかを確かめる手段がなければ、票の買い手は約束の履行を確認できず、圧力をかける側は従ったかどうかを検証できない。記載台の仕切りの配置、投票箱への投函の動線、代理投票で補助者が知った内容の守秘まで、投票所の設計と運用はこの原則を物理的に支えている。
無資格者の票も暴けない——昭和25年最高裁判決
投票の秘密がどこまで貫かれるかを示すのが、最高裁昭和25年11月9日判決である。最高裁は、選挙権のない者がした投票についても、その投票が誰に対してされたかを、議員の当選の効力を定める手続の中で取り調べてはならないとした。つまり、資格のない票が混じった疑いがあっても、個々の票と投票者を結びつける形での検証は許されず、当選争訟ではどの候補者に入ったか分からない票として得票数に応じた計算で処理するほかない。秘密の保障が選挙の結果を確定する裁判手続にすら優先するという原則の強度を示す判例であり、開票や争訟の実務で投票者の特定につながる調査をしてはならない根拠になっている。
投票用紙の撮影・選挙割と現場の対応
記載済み投票用紙の撮影やSNS投稿を直接禁じる明文の規定はない。しかし自分の票を見せる行為は、買収の履行確認や投票強要の道具に転用されうるうえ、撮影の動作は他の選挙人の記載をのぞき見る行為と区別しにくい。このため選管は、投票の秘密の保護と投票所の秩序維持(公職選挙法第60条)を理由に、投票所内での撮影を控えるよう求め、投票管理者が制止する運用をとるのが通例である。投票済証を提示すると割引が受けられる選挙割も、投票に行ったかどうかという事実の開示を事実上促す面があり、職場や団体による提出の強制が働けば秘密への圧力になるとの指摘がある。代理投票では補助に当たる事務従事者が投票内容を知る立場に立つため、知り得た内容を漏らしてはならないとされており、秘密の保障は例外的な場面ほど運用の規律で支えられている。
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