入札心得とは、入札に参加する者が守るべき手続のきまりを、発注機関があらかじめ定めて示す文書である。入札書の記載方法や無効となる入札、再入札・くじの取扱いなど、案件を問わず共通する入札手続の規律を内容とする。
開札の席で金額を訂正した札が出てきたとき、有効か無効かをその場の判断で決めれば、必ず公正性への疑いを残す。入札心得は、こうした取扱いを参加者全員にあらかじめ示しておくための文書で、財務規則や契約規則の細目として要綱・様式の形で整備され、入札公告や入札説明書とともに参加者へ示される。書かれるのは個別案件の条件ではなく、入札書の書き方と訂正の禁止、代理人による入札の手続、辞退の自由とその場合の不利益取扱いの禁止、再入札の回数、落札となるべき同価の入札が並んだときの同価くじといった、どの案件にも共通する手続のきまりである。入札の無効事由は開札後に争いの種になる最たるものだけに、入札説明書と並んで心得に列挙しておくことが事前明示の原則を支える。参加者の側でも、応札前に心得を読み込んでいないと、書式の不備や持参書類の漏れという初歩的な理由で札を無効にされかねない。
公告・説明書・心得——三つの文書の役割分担
入札の参加者に渡る文書は役割で三層に分かれる。入札公告は地方自治法施行令第167条の6に基づき案件の存在と概要を周知するもの、入札説明書は当該案件の参加資格・契約条件・評価基準を詳述するもの、入札心得はそれらの前提となる手続共通のきまりを定めるものである。心得は団体の例規集や様式集に載る恒常的な定めで、案件ごとに書き直されない分、参加者は一度読めばその団体の全案件に通用する。逆に発注者の側は、説明書と心得とで記載が食い違うと取扱いの根拠が崩れるため、規則改正や電子入札の導入に合わせて心得を改めることを怠れない。紙の持参を前提とした規定は電子入札にそのまま通用しないため、電子くじや締切時刻の扱いを定めた電子入札用の心得を別に置く団体もある。
開札の現場で効く規定——訂正禁止・辞退・くじ
心得の規定がもっとも働くのは開札の場面である。金額を訂正した入札書や記名押印を欠く入札書を無効と扱う根拠は心得の列挙にあり、明示のない事由で開札後に無効を宣言すれば参加者との紛争に直結する。再入札は地方自治法施行令第167条の8第4項が「直ちに、再度の入札をすることができる」と認めるが、何回まで行うかは法令でなく心得や財務規則の定めによる(1回ないし2回とする例が標準的である)。同価の札が並んだときのくじは施行令第167条の9が根拠で、くじを引かない者がいれば入札事務に関係のない職員が代わって引くことまで、心得は段取りとして書き下しておく。辞退については、入札の執行が完了するまではいつでも辞退でき、辞退を理由に以後の指名などで不利益な取扱いを受けないことを明記するのが標準で、無理な応札による履行不能を防ぐ安全弁になっている。
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