行旅死亡人とは、行旅中に死亡して引き取る者がない人のほか、住所も氏名も知れず引き取る者がない死亡人を含めて指す、行旅病人及行旅死亡人取扱法上の概念をいう。
身元の分からない遺体が見つかったとき、誰が葬り、費用を誰が払うのか。明治32年制定の行旅病人及行旅死亡人取扱法は、この問いに今も答えている現役の法律である。同法は本来の「行き倒れ」だけでなく、住所も氏名も知れず引取者のない死亡人を行旅死亡人とみなす規定を置くため、自宅で死亡した身元不明者や引き取る者のない遺体も対象になりうる。取り扱いは死亡地の市町村の事務であり、市町村は遺体を火葬・埋葬したうえで、所持品や着衣の特徴、発見の経緯を官報に公告して相続人や知人からの申出を待つ。単身世帯の増加とともに取扱件数は社会的な関心を集めるようになり、官報の行旅死亡人公告は身元不明者のデータベースとしても参照される。福祉部門では葬祭扶助や墓地埋葬法第9条との使い分けが日常的な論点になる。
市町村の事務と費用の回収
市町村は行旅死亡人を発見したとき、火葬・埋葬を行い、遺留した金銭や有価証券をまず費用に充て、不足するときは相続人に、それでも回収できないときは扶養義務者に弁償を求める。最終的に弁償が得られない費用は都道府県が弁償する仕組みで、死亡地となった市町村だけが負担をかぶらない設計になっている。遺留金品は費用充当後も残ることがあり、相続人が現れない遺留金の保管・供託が全国の市町村で累積して課題になってきた。法務局への供託や相続財産清算人の選任には手間と費用がかかるため、少額の遺留金の取り扱いについて国が手引きを示すなど、運用の整理が続いている。
墓地埋葬法第9条・葬祭扶助との使い分け
引き取る者のない遺体の取り扱いには三つの枠組みがある。身元が分からない場合や行旅中の死亡であれば、行旅病人及行旅死亡人取扱法により死亡地の市町村が対応する。身元は判明しているが埋葬や火葬を行う者がいない場合は、墓地、埋葬等に関する法律第9条により死亡地の市町村長が埋火葬を行い、費用は行旅法の規定を準用して回収する。死者に葬祭を行う遺族等がいるものの困窮して費用を出せない場合は、生活保護法の葬祭扶助が適用される。三者は対象も費用の流れも異なり、死亡届の窓口や福祉事務所はこの振り分けを最初に判断することになる。
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