署名審査とは、条例の制定改廃や議会の解散、長や議員の解職などの直接請求のために提出された署名簿について、市区町村の選挙管理委員会が署名の効力を審査し、有効署名数を確定して証明する手続である(地方自治法第74条の2)。
リコールや条例制定の直接請求は、署名を集めて選挙管理委員会に提出した時点では、まだ署名簿の束にすぎない。署名審査は、この束を法的に意味のある数に変える手続である。市区町村の選管は、署名簿の署名を1筆ずつ選挙人名簿と照合し、署名した者が請求の資格を持つ選挙人か、同一人が重複して署名していないか、本人の自署といえるかを点検して、有効署名数を確定する。確定した数が法定数(条例の制定改廃なら有権者の50分の1以上、解散や解職なら原則3分の1以上)に達しているかどうかで、請求が次の段階に進めるかが決まる。
数十万筆規模の請求では、期限内に審査を終えるために選管事務局だけでなく他部局からの応援職員を投入する集中作業になる。疑わしい筆跡の突合、死亡者や転出者の署名の判定、押印や生年月日の不備の扱いなど、判断に迷う署名の処理が審査の質を左右する。住民側から見れば、集めた署名が何筆生き残るかを決める関門であり、選管にとっては直接民主制の手続を担う固有の事務である。
二十日・七日・十四日——期限で縛られた三段階
地方自治法第74条の2は、署名簿の提出を受けた市区町村選管に、提出を受けた日から20日以内に審査を行い、署名の効力を決定してその旨を証明するよう義務づける。証明が終わると署名簿は7日間、関係人の縦覧に供され、署名の効力に不服のある関係人は縦覧期間内に異議を申し出ることができる。異議の申出を受けた選管は14日以内にこれを決定する。法定の手続によらずに集められた署名や、誰が署名したのか確認し難い署名は無効とされる(同法第74条の3)。一連の期限は請求の成否を長く宙づりにしないための設計だが、裏返せば、大量の署名が出たときも選管は20日で審査を終えなければならず、照合作業の体制をどう組むかが市区町村の実務問題になる。
愛知県知事リコール署名偽造事件が示した審査の重み
2020年に提出された愛知県知事の解職請求署名をめぐる事件は、署名審査の役割を全国に知らしめた。提出された約43万筆を県内の市町村選管が審査したところ、同一の筆跡とみられる署名や選挙人名簿に存在しない者の署名が大量に見つかり、8割を超える署名が無効と判定された。アルバイトを動員して名簿を書き写させるという手口で署名簿が偽造されており、請求活動の事務局関係者は地方自治法違反で有罪判決を受けた。この事件は、署名審査が単なる形式点検ではなく、直接民主制の入口を守る関門であることを示すと同時に、偽造を見抜く負担が市町村選管の照合作業に集中する構造も浮き彫りにし、審査手法や体制の標準化が選管共通の検討事項として残されている。
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