保留床とは、市街地再開発事業で整備される施設建築物の床のうち、従前の権利者に権利変換で割り当てる権利床を除いて施行者が取得し、処分して事業費に充てる床である。
再開発ビルの床が予定価格で売れるかどうか——市街地再開発事業の採算は、最後はこの一点に懸かっている。第一種市街地再開発事業では、従前の土地・建物の権利者には資産評価に見合う床(権利床)が与えられ、買収費は発生しない代わりに、調査設計費、補償費、工事費といった事業費は、権利床を配分した後に残る床=保留床を売却・賃貸した収入と補助金でまかなう。保留床が高く確実に処分できれば事業は回り、床需要を読み違えれば資金計画が崩れて権利者の負担増や事業の停滞に直結する。処分先は、組合施行であれば定款で参加組合員として加わるデベロッパーが典型で、保留床部分の建築自体を引き受ける特定建築者の仕組みも用意されている。地方都市では商業床の需要減退を背景に、住宅(分譲マンション)や公共公益施設で床を埋める構成が主流になっており、自治体が図書館やホールとして保留床を取得するかどうかは、議会と監査の定番論点である。
再開発の資金計画は保留床処分で決まる
第一種市街地再開発事業の収支は、支出側が調査設計費、既存建物の補償・除却費、施設建築物の工事費で構成され、収入側は保留床処分金と国・自治体の補助金が二本柱になる。保留床の想定処分価格は事業計画の段階で資金計画に織り込まれるため、計画時の床価格の見立てが甘いと、工事費の上昇や市況の悪化で後から穴が開く。処分が滞った場合の調整手段は、床価格の引下げ、計画の見直し、権利者負担の増といずれも痛みを伴うものしかない。参加組合員制度は、処分リスクを早期にデベロッパーへ移転して資金を確定させる仕組みであり、特定建築者制度は保留床部分の建築費負担ごと第三者に委ねる仕組みである。いずれも採算の不確実性を誰が引き受けるかという問いへの制度的な答えといえる。
自治体が保留床を買うとき
床需要の乏しい地方都市の再開発では、自治体が保留床を公共公益施設として取得して事業を成立させる構図が珍しくない。図書館、ホール、子育て支援施設、庁舎の分室が典型で、中心市街地に公共機能を集約する政策効果と、事業救済の色彩が常に背中合わせになる。点検すべき論点は、取得価格の妥当性(不動産鑑定と床原価の検証)、供用後の維持管理費、そして再開発ビルの区分所有者として将来の大規模修繕の負担を抱え込む点である。取得費に国の交付金を充てる場合も、後年度の運営費は自治体の持ち出しになる。議会審議や住民監査請求で問われるのはほぼこの三点であり、担当課は「床を買う理由」を施設政策の側から説明できるよう準備しておく必要がある。
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