悪臭とは、事業活動などに伴って生じる不快なにおいであって、人の生活環境に被害を生じるおそれのあるものである。
畜舎や飼料工場、下水処理場、飲食店の排気から漂うにおいは、暮らしのなかで不快感を引き起こす悪臭となる。悪臭は典型七公害の一つで、人の嗅覚に直接訴える点が特徴であり、においの感じ方に個人差が大きいため数値で割り切りにくい公害である。規制の柱は悪臭防止法で、知事や市町村長が指定する規制地域内の事業場を対象に、アンモニアや硫化水素など特定悪臭物質の濃度による規制か、人の嗅覚に基づく臭気指数による規制のいずれかで規律する。市町村は規制地域の指定、敷地境界や排出口でのにおいの測定、苦情への対応や事業者への改善勧告・命令を担う。発生源が畜産・食品・化学など多岐にわたり、住民の生活実感に近いため、苦情処理が公害行政の中心的な仕事となる類型である。
物質濃度規制から臭気指数規制へ
悪臭の規制には、二つの異なる物差しがある。一つは、アンモニア・硫化水素・メチルメルカプタンなど、不快なにおいの原因となる物質を特定悪臭物質として定め、その濃度で規制する方法である。客観的に測れる利点があるが、においは多数の物質が混じり合って生じることが多く、個々の物質濃度が基準内でも実際には強く臭うという食い違いが起こりうる。そこで導入されたのが、もう一つの物差しである臭気指数規制である。これは、においを薄めていって人が感じなくなるまでの希釈の倍率(臭気濃度)をもとに指数化するもので、人の嗅覚で総合的に評価する点に特徴がある。複合臭や未規制物質によるにおいにも対応できるため、これを採用する自治体が増えてきた。どちらの方式で規制するかは、地域ごとに知事や市町村長が選択する。
主観性の強さと苦情対応の難しさ
悪臭は、典型七公害のなかでもとりわけ主観に左右される問題である。においの感じ方は人によって、また体調や時間帯によっても変わり、ある人には耐えがたいにおいが別の人にはほとんど気にならないということが起こる。発生源も畜舎や堆肥、食品工場、下水・し尿処理、塗装や化学工場など幅が広く、風向きや気象条件によってにおいが届いたり届かなかったりするため、苦情があったときに発生源で原因をとらえること自体が難しい。市町村の担当者は、苦情の現場でにおいを確認し、敷地境界での測定を行い、事業者に脱臭設備の導入や作業方法の改善を働きかける。数値で割り切りにくいぶん、住民の納得と事業者の対応可能性の間で折り合いを探る調整が、悪臭行政の中心を占める。
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