工業用水道とは、工場に対して工業の用に供する水を供給する水道であって、工業用水道事業法に基づき整備・運営されるものである。
製鉄所や化学工場が大量に使う冷却用・洗浄用の水を専用に届けるのが工業用水道である。飲み水を供給する上水道とは別の系統として整備され、工場の操業に欠かせない安価で安定した水を担う。根拠となるのは工業用水道事業法で、料金や供給条件などについて上水道とは異なる枠組みが定められている。供給する水は飲用ほどの高い水質を必要としないため浄水の度合いが低く、その分料金を抑えられる点が工業用水道の存在意義である。事業の多くは都道府県や市が公営企業として経営し、地盤沈下を防ぐため地下水のくみ上げを地表水に切り替える政策的な目的から各地で整備されてきた経緯を持つ。立地企業へ水を安定して供給し、地域の産業基盤を支える役割を担う。
上水道と分けて整備される理由
工業用水道がわざわざ飲み水の上水道と別系統で設けられるのには、はっきりした理由がある。工場が使う冷却水や洗浄水は、飲用に求められるほどの高い水質を必要としない。飲用水並みに浄水した水を冷却に回すのは過剰であり、もったいない。そこで、浄水の度合いを抑えたぶん料金を安くした水を、専用の管路で工場へ大量に供給するのが工業用水道である。一立方メートルあたりの単価は上水道よりかなり低く設定されることが多く、水を大量に使う製造業にとってコスト面の意味は大きい。供給先が限られた工場であるため、責任水量制といって、実際の使用量にかかわらず契約した水量に応じて料金を負担する仕組みがとられることが多い点も、不特定多数に給水する上水道との違いである。
地盤沈下対策としての導入経緯
工業用水道が全国に整備された背景には、地盤沈下という公害問題がある。かつて工場は冷却や洗浄に必要な水を、コストのかからない地下水のくみ上げで賄っていた。しかし、工業地帯で地下水を過剰にくみ上げた結果、地盤が広範囲にわたって沈下し、ゼロメートル地帯の拡大や高潮・浸水のリスク増大を招いた。これに対し、工業用水法や建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)で地下水のくみ上げを規制する一方、その代わりとなる水を供給する受け皿として工業用水道の整備が政策的に進められた。地下水から地表水(河川水など)への水源転換を促し、地盤沈下を食い止めるという、地下水保全と表裏一体の政策手段として導入された経緯がある。このため工業用水道事業は、多くが都道府県や市の公営企業として経営されている。
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