カスタマーハラスメントとは、住民や事業者など行政サービスの相手方からの言動のうち、要求の内容や手段・態様が社会通念上不相当で、職員の就業環境を害するものをいう。
窓口で長時間にわたり大声で職員を叱責し続ける、土下座や私的な謝罪を執拗に求める、職員個人をSNSで名指しして攻撃するといった言動は、正当な苦情の範囲を超えて職員の心身を消耗させる。カスタマーハラスメントは相手方からの著しい迷惑行為を指し、組織内部の関係を対象とするパワーハラスメントと区別され、また正当な権利行使や正当なクレームとも区別される。行政対象暴力が威力・暴力による不当要求を中心とするのに対し、カスタマーハラスメントは暴力に至らない執拗な言動も含む広い概念として整理される。厚生労働省の対策企業マニュアルや、自治体・都道府県によるカスタマーハラスメント防止条例の制定が進み、地方公共団体でも組織として職員を守る方針の明示、対応記録の作成、複数人・録音での対応、悪質事案の警察・弁護士との連携が職場の対応として整えられつつある点が実務の論点である。
正当なクレームとの線引きと組織対応
カスタマーハラスメントの実務の核心は、正当な苦情・権利行使とハラスメントの線引きにある。行政の処分や対応への不服や改善の要求それ自体は正当な権利行使であり、安易にハラスメント扱いすれば住民の権利を損なう。判断は要求内容の妥当性と、要求を実現するための手段・態様の相当性の二軸で行われ、要求に理由があっても長時間の拘束・人格否定・職員個人への攻撃といった手段が不相当であればハラスメントに当たりうる。重要なのは職員個人の対応に委ねず、組織として基準と対応手順をあらかじめ定め、悪質事案は上席者や法務・警察と連携して組織で対応する体制を整える点で、対応記録の作成と情報共有がその基盤となる。
安全配慮義務と条例化の動き
任命権者は職員に対し安全配慮義務を負い、相手方からの著しい迷惑行為についても職員の心身の健康を守る措置を講じる責任がある。近年は東京都をはじめとする自治体でカスタマーハラスメント防止条例の制定が進み、何人もカスタマーハラスメントを行ってはならないとする理念や、事業者・行政の責務を定める例が現れている。条例は加害者への直接の罰則よりも、防止の理念の共有と被害者支援・体制整備の根拠づけに主眼を置くものが多い。地方公共団体にとっては、自らが相手方を保護する事業者の立場と、職員を守る使用者の立場の双方を担う点に特徴があり、窓口・電話対応の負担が大きい部署での対応マニュアル整備が継続的な課題となる。
ご意見箱(匿名でひとことから投稿できます)