行政裁量とは、法令が行政庁に一定の判断・選択の余地を与えている範囲で、行政庁が自らの合理的判断により行政行為等の内容を決定できる権限をいう。
法律であらゆる場面を細部まで一律に定めることはできず、現場の個別事情に応じた判断を行政に委ねざるを得ない領域がある。行政裁量は、こうした判断・選択の余地であり、法令が行政庁に与えた範囲で、行政庁が自らの合理的な判断によって行政行為の内容を決められる権限をいう。専門的・技術的な分野ほど裁量の余地は広い。
裁量は柔軟な行政を可能にする一方、行政庁の恣意を招く危険もはらむため、その行使には法的な統制が及ぶ。裁判所は、裁量の逸脱や濫用があった場合に限って処分を違法と判断でき、その歯止めとして比例原則・平等原則・信頼保護の原則といった行政法の一般原則が機能する。裁量がまったく認められない覊束行為との区別や、裁量の幅の広狭をどう捉えるかが、行政訴訟の重要な争点となる。
裁量が必要とされる理由と統制
行政裁量は、法令が「することができる」「必要と認めるとき」といった文言で行政庁に判断の余地を与えた場合に生じる選択の自由である。行政は多様な事実関係を個別具体的に処理する必要があり、すべての場合をあらかじめ法令で一律に規律することは困難なため、行政庁による専門的・技術的な裁量が欠かせない。一方で、裁量は恣意的に行使される危険を伴うため、その統制が大きな課題となる。裁量の逸脱・濫用を判断する規範として、比例原則・平等原則・信頼保護の原則などの行政法の一般原則が機能し、裁判所による事後の審査の手がかりとなる。
裁量の種類
行政裁量は要件裁量と効果裁量に大別される。要件裁量は処分の要件を構成する事実・概念の認定判断に裁量が認められる場合であり(例:「公益上必要」「相当と認める」等の不確定概念の解釈)、効果裁量は要件が認定された場合に処分をするか否か・いかなる処分を選択するかについての裁量である。実務上重要なのは処分基準(行政手続法第12条)の設定であり、裁量の範囲を内部的に定型化することで一貫した処分を実現する。要件裁量と効果裁量のいずれにあたるかによって、裁判所が審査する密度や違法と判断される場面も変わってくる。
裁量の司法審査
裁量処分に対する取消訴訟において、裁判所は行政庁の裁量権行使が裁量の逸脱・濫用にあたるかを審査する(行政事件訴訟法第30条)。最高裁は裁量権の逸脱・濫用について、考慮すべき事情を考慮しない・考慮すべきでない事情を考慮する・比例原則・平等原則に反するという観点から判断する立場を示している。裁量審査の強度は処分の性質・利益への影響の程度等によって異なり、基本的権利に関わる処分では厳格な審査が行われる。
自治体実務での対応
自治体の裁量処分については、処分基準を策定・公表することで裁量の透明性と予測可能性を確保することが行政手続法上の努力義務とされている。裁量基準を定めない恣意的な処分や、一方では許可し他方では拒否するといった不均等な処分は違法となりうる。裁量処分の起案に際しては、処分理由の記録・根拠条文の特定・類似事案との整合性確認を徹底し、将来の争訟リスクを最小化する姿勢が不可欠である。裁量の適正行使を組織的に確保するため、法務担当による起案審査・弁護士への意見照会等の仕組みを整備することが望ましい。
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