公共安全モバイルシステムとは、警察、消防、防災などの公共安全機関が共同で利用することを想定し、携帯電話事業者の網を活用して災害時にも途絶しにくい通信を確保する移動通信システムである。旧称は公共安全LTE(PS-LTE)である。
大規模災害の現場では、消防、警察、自治体がそれぞれ別系統の無線を使い、機関をまたいだ連絡は本部経由で折り返すしかない。この縦割りの通信を共通のモバイル網の上で結び直す構想が公共安全モバイルシステムである。米国が専用周波数で全国網(FirstNet)を建てたのに対し、日本は新たな専用網を建設せず、携帯電話事業者の商用網に優先制御や複数回線の冗長化を重ねる方式を採り、総務省が2019年度から検討と実証を進めてきた。市販のスマートフォンに専用SIMを挿して使えるため、平時は通常の公用携帯として使いながら、輻輳時にも公共安全機関の通信を確保できる。2023年には呼称が公共安全LTEから公共安全モバイルシステムへ改められ、2024年には対応する商用サービスの提供も始まった。自治体にとっては、防災行政無線の移動系や消防救急デジタル無線を将来どう補完し置き換えるかという、設備更新の選択肢に関わる。
専用網を建てない日本型——商用網への相乗りと冗長化
諸外国の公共安全通信には、米国のFirstNetのように公共安全専用の周波数と網を国家規模で整備する方式があるが、日本は専用網を新設する費用を避け、既存の携帯電話事業者網を活用する方式を選んだ。単一の事業者網では基地局の被災や輻輳で途絶しうるため、複数の事業者の回線を一枚のSIMで切り替えて使う冗長化が方式の核心で、令和5年度には総務省が横浜市や沖縄県などで導入実証を行った。2024年4月にはインターネットイニシアティブ(IIJ)が公共安全機関専用のモバイルサービスの提供を始め、構想は検討段階から調達可能なサービスの段階に移った。自治体側の論点は費用負担と既存無線との関係であり、音声無線が持つ即時の一斉通話のような従来機能をデータ通信でどこまで代替できるかが、導入判断の分かれ目になる。
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