撤回とは、瑕疵なく成立した行政行為について、その後に生じた新たな事情を理由として、将来に向かってその効力を失わせる行政庁の行為をいう。
いったん適法に出した許可を、後から取り上げることはできるのか。撤回は、成立時には何の欠陥もなかった処分を、その後の事情変化を理由に将来効をもって消滅させる行為である。許可を受けた者が許可条件に違反した、補助金交付後に対象事業が中止された、といった後発の事由がきっかけになる。これに対し、成立時から違法・不当の瑕疵があった処分を当初に遡って消す職権取消とは、瑕疵が当初からあるか後発かという点と、効力が遡るか将来効かという点で区別される。撤回は相手方の権利を奪う場合があるため、利益を付与した処分の撤回には法律の根拠が要るのか、損失補償が必要かが論点となる。判例は、撤回によって相手方が被る不利益を上回る公益上の必要があれば、明文の根拠がなくても処分庁は撤回しうるとする一方、相手方に帰責性のない撤回では損失補償を要する場合がある。
職権取消との区別
撤回と職権取消は、いずれも行政庁が自ら行った処分の効力を失わせる行為だが、要件と効果が異なる。職権取消は、処分の成立時に存在した違法または不当の瑕疵を事後に発見した場合に、原則として処分時に遡って(遡及的に)効力を失わせる。これに対し撤回は、成立時には瑕疵がなかった処分について、その後に生じた事情(条件違反・事情変更・公益上の必要など)を理由に、将来に向かって効力を失わせる。実定法は両者をともに「取消し」と表記することが多く混同されやすいが、講学上は瑕疵の時点と効力消滅の時間的方向で明確に区別される。違法状態の是正が職権取消、適法だった状態の将来的な打ち切りが撤回である。
撤回の制限と損失補償
相手方に利益を与える処分(授益的行政行為)の撤回は、相手方の既得の地位や信頼を害するため無制限には認められない。判例は、撤回によって相手方が受ける不利益を考慮してもなお撤回すべき公益上の必要が高い場合には、法律に明文の撤回規定がなくても処分庁は撤回できるとする(菊田医師事件など)。一方、相手方に責められるべき事由がないのに公益上の都合で撤回する場合には、財産権の保障に照らして損失補償を要すると解される余地がある。許可条件違反や法令違反のように相手方の帰責事由に基づく撤回(制裁的撤回)では、補償は問題とならないのが通常である。撤回権を留保する条件(撤回権の留保)をあらかじめ付款として付しておく実務上の工夫もある。
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