障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)とは、障害者の人権と基本的自由の享有を確保し、その固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする国際連合の人権条約である。日本は2007年に署名し、2014年に批准した。
障害者施策をめぐる近年の法改正は、思いつきで進んだわけではなく一つの国際的な約束を出発点としている。障害者権利条約は障害を個人の心身の問題ではなく社会の側の障壁の問題として捉え直す「社会モデル」の考え方を国際的な人権基準として定めたもので、日本国内の障害者法制を条約に適合させる流れがここから生まれた。
日本は2014年の批准に先立ち、国内法を条約の水準に整える作業を進めた。2011年の障害者基本法改正で「社会的障壁」の定義と合理的配慮の考え方を取り込み、2012年に障害者総合支援法を成立させ、2013年に障害者差別解消法を制定したのは、いずれも条約の要請を国内で実現するための布石である。条約は締約国に対し、障害を理由とする差別の禁止、合理的配慮の提供、地域社会で生活する権利の保障などを義務づけ、その実施状況は国連の障害者権利委員会が審査する。日本は2022年に初回の審査を受け、精神科入院や分離教育のあり方などについて委員会から改善の勧告を受けた。自治体の障害福祉施策がなぜ「地域移行」や「合理的配慮」を軸に展開するのかを理解する土台となる。
障害の「社会モデル」への転換
障害者権利条約の中核にあるのは、障害を捉える視点の転換である。従来は障害を個人の心身機能の損傷そのものと捉える「医学モデル」が支配的だったが、条約は障害を、心身の機能障害と社会の側にある障壁(物理的・制度的・情報面・意識上のバリア)との相互作用から生じるものと捉える「社会モデル」を採用した。この考え方によれば、障害のある人が直面する困難は本人の努力で克服すべきものではなく、社会の側が障壁を取り除く責任を負う。日本は2011年の障害者基本法改正でこの「社会的障壁」を法律上定義し、社会モデルの考え方を国内法に取り込んだ。合理的配慮の提供義務や、障害を理由とする差別の禁止は、いずれもこの社会モデルから論理的に導かれる帰結である。
批准に向けた国内法整備の流れ
日本は2007年に条約に署名したが、批准までに7年を要した。これは署名から批准へ拙速に進むのではなく、国内法を条約の水準に整えてから批准すべきだという障害者団体の意見を踏まえたためである。この間に、2011年の障害者基本法改正、2012年の障害者総合支援法の成立(障害者自立支援法からの転換)、2013年の障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正が行われ、これらの国内法整備を経て2014年1月に批准に至った。批准後も条約は国内的効力を持ち、締約国は実施状況を国連の障害者権利委員会に報告して審査を受ける。日本は2022年8月に初回審査を受け、精神障害者の強制入院制度や障害児を分離する特別支援教育のあり方などについて改善を求める総括所見(勧告)を受けており、これが後続の制度見直しの論点となっている。
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