ジチテン

侵害留保

読み:しんがいりゅうほ

別名:侵害留保説
意味

侵害留保とは、国民の権利を制限し義務を課す侵害的な行政活動を行うには法律の根拠を要するとする考え方であり、法律の留保がどの範囲の行政活動に及ぶかをめぐる学説のうち通説をいう。

すべての行政活動に法律の根拠を求めれば行政は動けず、まったく求めなければ国民の権利が脅かされる。侵害留保は、この振れ幅の中で「どこまで法律の根拠を要するか」に一つの線を引く立場で、権利を制限し義務を課す侵害的作用にだけ法律の根拠を要求する。給付行政のように国民に利益を与える活動には必ずしも法律の根拠を要しないとするため、補助金の交付などが法律の根拠なく要綱で行われる実務の説明根拠になっている。学説上は、行政活動全般に根拠を求める全部留保説や、本質的に重要な事項に根拠を求める重要事項留保説(本質性理論)も主張されるが、実務はおおむね侵害留保の立場で運用されてきた。条例で住民に義務を課す場合に条例という法形式が必要とされるのも、この考え方が地方自治の場面に及んだ現れである。

法律の留保の範囲をめぐる学説の対立

侵害留保は「法律による行政の原理」の積極的側面である法律の留保について、それが及ぶ行政活動の範囲を画する学説の一つである。対立する主な立場として、行政活動のすべてに法律の根拠を要するとする全部留保説、給付行政にも根拠を要するとする社会留保説、権力的な活動には侵害・授益を問わず根拠を要するとする権力留保説、国民にとって本質的に重要な事項の決定には根拠を要するとする重要事項留保説(本質性理論)がある。このうち侵害留保は、権利制限・義務賦課という侵害的作用にのみ根拠を要求する点で最も範囲が狭く、明治期以来の通説として行政実務に定着してきた。給付行政の拡大に伴い学説では本質性理論への支持も強いが、実務の運用は侵害留保を基準に組み立てられている。

自治体実務への現れ

侵害留保の考え方は、自治体が住民に対して権利制限・義務賦課を行う場面の法形式選択に直結する。住民の権利を制限し義務を課すには、原則として議会の議決を経た条例によらなければならず(地方自治法第14条第2項)、要綱や規則といった下位の定めだけで義務を課すことはできない。逆に補助金の交付や行政サービスの提供といった授益的・給付的な活動は、侵害留保の立場では必ずしも法律・条例の根拠を要しないため、交付要綱などの行政内部の定めに基づいて運用される例が多い。もっとも、給付の打ち切りや返還命令のように相手方の不利益に転じる場面では侵害的性格が現れるため、根拠規範のあり方が改めて問われる。

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