生物多様性国家戦略とは、生物多様性基本法に基づき政府が定める、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国全体の基本的な計画である。
生物多様性の損失は気候変動と並ぶ地球規模の危機とされ、国としてどの目標へ向かい何を講じるかを示す羅針盤が必要となる。生物多様性国家戦略は、生物多様性基本法11条に基づき政府が定める国全体の基本計画であり、自治体が定める生物多様性地域戦略の上位に位置づけられる。最初の国家戦略は生物多様性条約の締約を受けて1995年に策定され、その後数次の改定を経てきた。2023年に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」は、2030年までに自然の損失を止めて回復軌道へ乗せるネイチャーポジティブの実現を目標に掲げ、陸と海の30%以上を保全する30by30目標などを盛り込んだ。30by30の達成手段として、国立公園等の保護地域に加え、民間の取組等によって生物多様性が保たれている区域を国が認定する自然共生サイト(OECM)の仕組みが導入された。自治体は国家戦略との整合を図りつつ地域戦略を策定し、地域の生態系・固有種・里山の実情に即した保全目標を具体化する役割を担う。
国家戦略から地域戦略へ――保全目標の翻訳構造
生物多様性国家戦略の自治体実務上の意味は、地域戦略の枠組みを与える上位計画である点にある。生物多様性基本法は、政府に生物多様性国家戦略の策定を義務づける一方(11条)、都道府県・市町村には生物多様性地域戦略の策定を努力義務として定める(13条)。地域戦略は、国家戦略が掲げる全国的な目標や考え方を、その地域の生態系・固有種・里山・農山漁村の自然の実情へ翻訳し、どの自然を、どの目標値で、誰が守るのかを具体化する計画として位置づけられる。国家戦略の改定は地域戦略の見直しの契機となり、2023年の国家戦略改定で示されたネイチャーポジティブや30by30の方向性は、各自治体の地域戦略にも反映が進む。自治体の自然環境担当は、国家戦略の目標体系を踏まえつつ、地域固有の保全課題を計画へ落とし込む作業を担う。
2023年国家戦略の柱――ネイチャーポジティブと30by30
生物多様性国家戦略2023-2030は、2022年に採択された生物多様性に関する新たな世界目標(昆明・モントリオール生物多様性枠組)を受けて閣議決定された。中心となる理念がネイチャーポジティブで、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道へ転じさせることを目指す考え方である。これを空間的に担保する目標が30by30で、2030年までに陸と海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として保全することを掲げる。達成手段として、従来の国立公園・国定公園などの保護地域の拡充に加え、保護地域以外で生物多様性の保全に資する区域(OECM)を国が自然共生サイトとして認定し、保全区域に組み込む仕組みが導入された。社寺林・里山・企業の緑地など民間の取組による自然も認定対象となりうる。自治体は、区域内の自然共生サイトの掘り起こしや、地域戦略における30by30への貢献の位置づけを通じて、国家戦略の目標達成に関与する。
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