最低生活保障の原理とは、生活保護法第3条に定める原理で、保護により保障される生活が健康で文化的な最低限度の生活水準を維持できるものでなければならないとする原理をいう。
生活保護で保障される生活はどの水準まで引き上げられるのか、という問いに「健康で文化的な最低限度」と答えるのが最低生活保障の原理である。生活保護法第3条は日本国憲法第25条第1項の文言をそのまま受け、保護水準が単なる生存の維持にとどまらず、人間に値する生活でなければならないと定める。実務上この水準は厚生労働大臣が定める保護基準として数値化され、年齢・世帯構成・所在地域の級地区分に応じた最低生活費が算定される。世帯の収入が最低生活費に満たない場合に、その差額が保護費として支給される。最低生活費という具体的な金額に翻訳されることで、第3条の抽象的な理念が現場の支給額決定に直結する。何が最低限度かは時代の生活様式や財政状況を踏まえて改定され、保護基準の妥当性は朝日訴訟以来くり返し争われてきた。
保護基準への具体化
最低生活保障の原理は、生活保護法第8条の基準及び程度の原則と結びついて保護基準へ翻訳される。厚生労働大臣は保護基準を告示で定め、生活扶助・住宅扶助・教育扶助など八種類の扶助ごとに、年齢・世帯人員・級地区分に応じた最低生活費を算定する。世帯の認定収入額が最低生活費を下回る場合、その差額が保護費として支給される。すなわち第3条が掲げる「健康で文化的な最低限度の生活」という理念は、基準額という数値に置き換えられて初めて支給額決定に作用する。基準の妥当性は朝日訴訟(昭和42年最高裁判決)で争われ、何が最低限度かの判断には厚生労働大臣の広い裁量が認められる一方、裁量の逸脱・濫用があれば違法となるとされた。
四原理の中での役割
四原理のうち国家責任の原理が保護の主体を、無差別平等の原理が保護の対象を定めるのに対し、最低生活保障の原理は保護の「水準」を定める原理である。補足性の原理が資産・能力・扶養を活用してもなお不足する場合に給付の順位を絞るのと対をなし、最低生活保障は不足を埋めて到達すべきゴールの高さを示す。両者は引き上げる目標水準と差し引く順位という形で支給額算定の上限と控除を画定する。級地区分により同じ世帯構成でも地域で最低生活費が異なるため、転居によって保護の要否や支給額が変動する点が窓口で説明を要する場面となる。
ご意見箱(匿名でひとことから投稿できます)