稼働能力とは、生活保護の補足性の原理において、保護に優先して活用すべき「能力」のうち、就労によって収入を得る能力をいう。
働けるのに働いていない人を生活保護から外すべきか——この問いの中心にあるのが稼働能力の扱いである。生活保護法は、利用しうる資産・能力その他あらゆるものを活用することを保護の要件とするため、就労能力としての稼働能力も保護に優先して活用すべきものとされる。もっとも、稼働能力があるだけで保護が拒まれるわけではなく、判断は「能力があるか」「それを活用する意思があるか」「実際に活用する就労の場があるか」の三要素で行うのが裁判例・実務の到達点である。働く意思があり求職活動を続けていても、地域に雇用の場がなければ稼働能力を活用できないと評価され、保護は否定されない。稼働能力の有無と活用可能性をどう見極めるかは、福祉事務所のケースワークで最も判断の分かれる論点の一つである。
能力・意思・場の三要素による判断
稼働能力の活用をめぐっては、名古屋高裁の林訴訟判決(1997年)が示した枠組みが実務の基礎になっている。すなわち、(1)稼働能力があるか、(2)その能力を活用する意思があるか、(3)能力を活用する就労の場が現実に得られるか、の三つを順に検討し、いずれかが欠ければ稼働能力を活用していないとは評価できない、という考え方である。年齢や健康状態から働ける能力があると見えても、本人に就労意思があり求職を続けているのに地域に雇用の場がなければ、「活用していない」とは言えず保護は認められる。福祉事務所が稼働能力を理由に保護を否定するには、この三要素を具体的に検討する必要があり、能力があるという一事をもって機械的に却下することは違法とされうる。
就労支援との接続と「水際作戦」批判
稼働能力の活用は、就労を強いる根拠ではなく就労を支える起点として運用すべきものである。実務では、稼働能力があると見込まれる被保護者・申請者に対し、就労支援員による求職支援や被保護者就労支援事業、生活困窮者向けの就労準備支援を組み合わせ、活用の「場」を行政側が用意していく。一方で、稼働能力を口実に申請を受け付けない「水際作戦」は、稼働能力の活用を保護の要件と取り違えた違法な運用であり、申請保護の原則に反する。稼働能力はあくまで補足性の一要素であって、活用の機会を欠くまま能力のみを問うことは制度の趣旨を外れる——この線引きが、稼働能力をめぐる行政と裁判所の緊張点であり続けている。
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