情勢適応の原則とは、地方公共団体が職員の給与・勤務時間その他の勤務条件を社会一般の情勢に適応するよう随時適当な措置を講じなければならないとする、地方公務員法第14条が定める勤務条件の根本基準である。労働基本権が制約される職員の勤務条件を、社会情勢に合わせて維持・改善する責務を当局に課す。
民間労働者は団体交渉や争議で賃金や労働時間を社会の変化に合わせて改定できるが、職員にはその手段が大きく制約されている。情勢適応の原則は、その代わりに当局自身へ「勤務条件を社会一般の情勢に合わせて随時見直せ」という責務を課すことで、勤務条件が時代から取り残されるのを防ぐ。地方公務員法第14条は、勤務条件を社会一般の情勢に適応させる随時の措置を地方公共団体に義務づけ、人事委員会には情勢適応のため必要な勧告を行う権限を認める。この原則は、人事委員会勧告(給与勧告)という制度の理論的な根拠であり、毎年の民間給与実態調査に基づく給与改定の出発点に位置する。労働基本権制約の代償措置という公務員給与決定の枠組み全体を理解するうえで欠かせない。
労働基本権制約の代償としての位置づけ
情勢適応の原則は、公務員の労働基本権制約と一体で理解すべき原則である。職員は争議行為が禁止され、団体交渉も労働協約の締結権を伴わない制約された形でしか認められない。そのため、社会情勢の変化を勤務条件へ反映させる市場的なメカニズムが働きにくい。地方公務員法第14条は、この欠落を埋めるために当局へ「社会一般の情勢に適応するよう随時適当な措置を講ずる」責務を課し、同条第2項で人事委員会に情勢適応のための勧告権を与えている。この勧告権が人事委員会勧告(給与勧告)として具体化し、民間給与との均衡を図る給与決定の起点となる。情勢適応の原則を欠けば、労働基本権を制約する正当化が崩れるという意味で、代償措置論の土台に位置する。
均衡の原則との役割分担
情勢適応の原則(第14条)と均衡の原則(第24条第2項)はいずれも給与を社会水準に合わせる方向で働くが、規律する局面が異なる。均衡の原則は給与を「定めるとき」の考慮要素(生計費、国・他団体・民間従業者の給与等との均衡)を示す静的な基準であるのに対し、情勢適応の原則は社会情勢が変化したときに勤務条件を「見直し続ける」動的な責務を示す。前者が水準の物差しを与え、後者がその物差しを時々の情勢に合わせて当て直すことを求める関係にあり、両者が組み合わさって公務員給与の改定サイクルが回る。
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