事前避難とは、大規模地震の切迫性が高まったとの情報を受け、地震が発生する前にあらかじめ安全な場所へ移動して身を守る避難行動をいう。
まだ揺れていない段階で、住民にどこまで避難を求められるのか。事前避難は、南海トラフ地震臨時情報のように大規模地震の発生可能性が相対的に高まったと評価された局面で、発災を待たずに行う避難である。確実な予知ではない情報に基づく点が通常の避難情報と異なり、空振りを前提に1週間程度といった長い期間を見込んで行われる。市区町村はあらかじめ地域防災計画で事前避難対象地区(津波到達が早い沿岸部など)や対象とする事業所を定め、要配慮者の搬送先や避難所の開設準備を区分ごとに切り分けて備える。生活や事業活動との両立、長期化したときの避難解除の判断、空き家となる住居の管理といった課題があり、確実に地震が来るとは限らない情報で住民の行動を促す難しさを伴う。
南海トラフ地震臨時情報との関係
事前避難が制度として明確に位置付けられたのは、南海トラフ地震臨時情報の運用が始まったことが背景にある。気象庁が「巨大地震警戒」を発表した場合、想定震源域でまだ地震が起きていない側の沿岸地域では、後発地震に備えて1週間程度の事前避難が呼びかけられる。対象は津波の到達が早く避難が間に合わないおそれのある地区が中心で、市区町村はあらかじめ地域防災計画に事前避難対象地区を定めておく。「巨大地震注意」の場合は一律の事前避難までは求めず、日頃の備えの再確認や個々の状況に応じた自主避難にとどまる。確実な予知ではない情報に基づくため、空振りも織り込んだうえで住民の主体的な判断を支える運用が前提となる。
大規模地震対策特別措置法における先行例
事前避難の発想は、南海トラフ以前に大規模地震対策特別措置法(大震法)が東海地震を対象に組み立てた仕組みに先行例がある。同法は地震防災対策強化地域を指定し、東海地震の前兆現象が観測された場合に内閣総理大臣が警戒宣言を発し、強化地域の住民や事業所に対し地震防災応急対策を発動する枠組みを定めた。この応急対策には、対象地区の住民の避難や交通規制、要配慮者の事前避難計画が含まれる。地震予知を前提とした警戒宣言型の枠組みは確度の点で限界が指摘され、南海トラフでは「確実な予知」を前提とせず可能性の高まりを段階的に伝える臨時情報へと運用が転換した。事前避難は両制度を貫く、発災前に身を守る行動という共通の考え方である。
つながりのある用語
ご意見箱(匿名でひとことから投稿できます)