行政争訟とは、行政庁の処分その他の公権力の行使に不服がある者が、その是正や取消しを求めて争う制度の総称であり、行政機関に対して行う行政上の不服申立てと、裁判所に対して行う行政訴訟とに大別される。
処分に不満のある住民から「もう一度役所で見直してほしい」と言われたのか、それとも「裁判所に訴える」と言われたのかで、担当課が向き合う制度はまったく異なる。行政争訟は、この二つの救済経路をまとめて指す講学上の概念であり、行政内部での見直しを求める行政上の不服申立て(行政不服審査法に基づく審査請求など)と、司法権による審理を求める行政訴訟(行政事件訴訟法に基づく取消訴訟など)の二本柱からなる。両者は同じ処分への救済手段でありながら、判断主体(行政庁か裁判所か)、費用、審理の速さ、判断の範囲(不服申立てでは当不当も争えるのに対し、訴訟では原則として違法性のみ)で違いがある。大半の処分では、不服申立てを経てから訴訟へ進むか、いきなり訴訟を起こすかを処分の相手方が選べる自由選択主義が原則となるが、個別法が不服申立てを先に求める審査請求前置を定める領域もある。担当課にとっては、処分に教示文(不服申立てや訴訟の方法・期間の案内)を正しく付すことが、争訟の入口を適正に開く実務上の要点となる。行政争訟は、行政活動による損害の金銭的な塡補を扱う国家賠償・損失補償と並んで、行政救済法の中核を構成する。
不服申立てと訴訟の使い分け
行政争訟の二本柱は、判断する主体が異なる。行政上の不服申立ては、処分をした行政庁やその上級庁という行政部内の機関が審理するため、費用がかからず簡易・迅速で、処分が違法な場合だけでなく不当(裁量の行使が妥当でない場合)も争える点に特徴がある。これに対し行政訴訟は、独立した裁判所が審理するため公正中立性が高いが、訴訟費用や時間を要し、原則として処分の違法性のみを審理対象とする。両者の関係は、かつての審査請求前置主義(不服申立てを経なければ出訴できない)が2014年の行政不服審査法全部改正に伴う関係法整備で大幅に縮減され、現在は自由選択主義(どちらを先に選んでもよい)が原則となっている。ただし国税・地方税の賦課徴収など、大量・反復的な処分を扱う一部の領域では、なお審査請求前置が残る。
教示と出訴期間
行政争訟の実務で担当課が最も注意すべきは、処分に付す教示である。行政不服審査法と行政事件訴訟法は、不利益処分などをする際に、不服申立てや取消訴訟をすることができる旨、相手方とすべき行政庁、申立てや出訴のできる期間を書面で教示することを義務づけている。教示を誤ったり欠いたりすると、申立期間が延びるなど相手方に有利な救済が働く場合がある。期間の面では、審査請求は処分を知った日の翌日から原則3か月、取消訴訟は処分を知った日から原則6か月という出訴期間が定められ、これを過ぎると不可争力が生じて争えなくなる。処分通知書の文面に正確な教示を盛り込むことが、後日の争訟リスクを左右する。
ご意見箱(匿名でひとことから投稿できます)